Microsoftの中小企業向けクラウドERPであるDynamics 365 Business Central のマイナー機能を紹介していくこのシリーズ。
今回は「繰延スケジュール (Deferral Schedule)」について解説していきます。ありとあらゆる取引がサブスクリプション化されていく世の中で、ますます重要性が高まっている機能です。
Dynamics 365 Business Centralは、マイクロソフトが開発した中小企業向けの多言語・多通貨対応のERPシステムです。販売管理・在庫管理・生産管理・会計・債権債務など、企業の基幹業務をクラウド上で統合的に管理することができます。また、WordやExcel、Teams、Outlookなど、他のマイクロソフトのサービスと組み合わせて業務を効率化する仕組みが多数搭載されています。
繰延処理とは?
簿記用語に”くまのみみ”というものがあります。
本日はこの中の”くま”部分に関するBusiness Centralのマイナー機能について解説したいと思います。簿記用語における”くま”とは「繰延というキーワードがでてきたら前受(または前払)の科目を使え」という受験テクニック的なものです。
この”くまのみみ”は、会計における実現主義や発生主義という考え方を体現する重要な概念で、実務でも頻繁に発生します。ちなみに”みみ”は「見越しというキーワードが出てきたら未収(または未払)の科目を使え」というやつです。(これはこれでBCに専用の機能がありますので、気が向いたら紹介します。)
Business Centralには「繰延スケジュール (Deferred Schedule)」という機能があり、これを使うことで費用や収益の繰延処理を自動化することができます。
例として、簿記3級の試験で出題されがちな定番のやつを考えてみましょう。
例題
X社では20X1年6月から20X2年5月までの保険料1,200,000を20X1年6月30日に支払い、期中に以下の仕訳を記帳した。
20X1年6月30日 保険料 / 当座預金 1,200,000
この件に関連し、X社が決算整理仕訳として計上すべき仕訳を答えよ。なおX社の決算日は3月末とする。
答えと解説
答え:20X2年3月31日 前払費用 / 保険料 200,000
解説:契約期間(6月から翌5月)と、会計期間(4月から翌3月)は2カ月ズレているので、6月に支払った保険料のうち2ヶ月分は翌期の費用にする必要がありますね。
実務では以下のように洗い替えの仕訳を入れることになります。
20X2年3月31日 前払費用 / 保険料 200,000
20X2年4月1日 保険料 / 前払費用 200,000
繰延スケジュール機能の使い方
設定方法
設定は非常に簡単で、「繰延テンプレート」というものをいくつか作成するだけです。「前受収益」と「前払費用」の2パターンを作っておきましょう。詳細は割愛しますが、繰延勘定には前受収益もしくは前払費用の科目を設定し、期間数は12としておけばOKです。

年額用の商品コードを作っている場合は、マスタに対してデフォルトの繰延コードをセットしておくとよいでしょう。

運用イメージ
例えば「1年分のライセンス利用料を請求する」という場合、受注を登録したときに該当の明細に対して先ほど作成した「前受収益」という繰延コードをセットします。前段のところで品目マスタに既定の繰延テンプレートを設定している場合は自動でコードが入ってきます。

これを転記すると売掛金は一括で計上されますが、売上は向こう12か月にわたって自動で繰延べられます。

発注や仕訳入力の画面でも同様です。

注意点
日本の消費税法では前払を行った場合、それにかかわる消費税は当該会計期間で仕入税額控除をすることはできず消費税についても原則繰延を行う必要があります。
しかし、Business Centralの繰延スケジュール機能は消費税の繰延べには対応しておらず全額が当期の消費税として認識されてしまいます。
そのため、短期前払費用の特例を適用しない場合は消費税申告の時に調整を行う必要があります。(もしくはBCをカスタマイズして消費税も一緒に繰延べられるようにするという手もあります)
まとめ
前受、前払の繰延べというのは決算整理仕訳の中のメジャーな項目の一つです。税務の観点からは期末に一括で調整をすればよいのですが、管理会計の観点からはキチンと月次で処理をすべきです。
あらゆるサービスがサブスクリプション化されていく中で、年払いの取引を期末に洗い出して人力で頑張って調整するのは大変ですし、金額が大きくなれば月次の利益を見誤ることになります。また、部門別やプロジェクト別の利益を考慮して細かく繰り延べるというのも無理があるでしょう。
つまり、決算が終わらないと正しい利益がわからないということです。それも会社全体の数字でしかありません。
この機能を正しく利用することで正確な利益を月次で把握できるように、そして決算のときに無駄な作業をすることがないよう業務を設計していきたいものです。





