本記事ではERPでKPIを管理することについて、その考え方や手法を解説していきます。
今回は管理会計寄りの話となり、統合報告や環境会計といった財務会計寄りの話は別記事で紹介します。
KPIを管理する目的
KPI (Key Performance Indicator) に限らず、いわゆる”非会計情報”をシステムで取り扱う場合、その目的は大きく2つに分けることができます。
1つは管理会計です。特に業績評価や意思決定といった分野において非会計情報の管理は必須となります。
今月の受注件数は何件だとか、Webからの問い合わせ件数はどうだとか、そのような情報を集め分析することで経営に生かしていくことができます。この場合は主に社内でその情報を利用することになります。
もう1つは統合報告です。これは財務情報以外も一緒に開示しようよという話で、その中でも定量的な情報を開示する場合において、非会計情報をシステムで収集・管理していくニーズがでてきます。
一例として環境会計があげられ、これは企業の活動を集計することでCO2の排出量などを算定して公開するというものです。この場合は社外にデータを公開することが目的となります。どちらかと言えば管理会計ではなく財務会計の分野に区分されます。
Business Centralの2024年春のバージョン (2024 Wave 2) では、環境会計に対応するための”サステナビリティ仕訳帳” (Sustainability Journal)という機能がリリースされる予定です。
統合報告や環境会計というテーマはその機能がリリースされてから詳しく取り上げるとして、今回は管理会計目的でKPIを収集・管理するという目的にフォーカスしたいと思います。
Dynamics 365 Business Centralは、マイクロソフトが開発した中小企業向けの多言語・多通貨対応のERPシステムです。販売管理・在庫管理・生産管理・会計・債権債務など、企業の基幹業務をクラウド上で統合的に管理することができます。また、WordやExcel、Teams、Outlookなど、他のマイクロソフトのサービスと組み合わせて業務を効率化する仕組みが多数搭載されています。
KPIをERPで管理することのメリット
そもそも、KPIや非会計情報をERPで管理する必要はあるのでしょうか?
Webからの問い合わせ件数などはExcelでまとめてどこかにおいておけばよいですし、CRMやSFAといったシステムを使っていればそこで商談件数などは自動でカウントすることができます。それらの情報を日々BIツールなどで吸い上げて自動でレポートを作るといった運用は可能でしょう。
しかし、少し手間をかけてでもERP上でKPIを管理することには以下のような利点があります。
- 分析軸が統一される
- 厳格な帳簿として管理できる
- 配賦基準として利用できる
メリット①:分析軸が統一される
Business Centralに限らず、一般的なERPでは分析軸 (Dimension)というものを使ってデータを管理することになります。
これはいわゆる部門コードやセグメントコード、プロジェクトコードといったものですが、これらの情報が社内で最初に登録され、マスタデータとして位置づけられるシステムはERPであることが多いです。
例えば、社内で新たなプロジェクトが発足されたとき一番最初にERP上でプロジェクトコードが採番され、その情報が勤怠管理システムなど他のシステムに波及していくという流れが自然でしょう。
管理会計で利用される切り口としての分析軸をマスタとして常に正しく保有しているシステムがERPであるとするならば、その情報とKPIを紐づけて管理する場所としてERPは最適です。
まわりくどい言い方になりましたが、「今月のクレーム件数を部門別社員別に登録しよう」と思ったときにExcelだと部門コードや社員コードを正しく選ぶのは難しいですよね、ということです。
メリット②:厳格な帳簿として管理される
これは特に業績評価目的でKPIを収集する場合を考えるとわかりやすいかと思います。
ERPは超ざっくり言えば”帳簿を管理する”ことを目的としたシステムです。そして、ERPでいう帳簿 (Ledger) は絶対に書き換えることができない作りになっています。そうじゃないERP製品もありますが、少なくともBusiness Centralでは帳簿=絶対に書き換えられないもの、です。
例えば、SFAでもっている訪問件数をKPIとして管理していてこれが四半期ごとに集計され営業成績に反映される、というルールの会社があったとします。この場合、悪意ある営業担当者が一時的に過去日で大量の営業報告を登録して後から消すという手段をとることで、容易に自分の成績を上げることができます。
これはこれでSFAのあり方としては正しいと言えます。一度登録した情報を消したり変更できないSFAなんてめっちゃ使いにくいからです。
しかし、公正な業績評価という観点からはこれが問題になります。
なので、当然あとから変更できない別の場所にデータを残しておこうよということになるのですが、ここでERPが得意とする”帳簿を管理する”という機能が生きてきます。
ERPでは一度帳簿に書き込まれたデータはシステム管理者であっても消したり変更することはできず、必ず赤黒処理が必要となるからです。また、月を締めることで過去日での登録が行えなくなります。
このように、取り扱うデータが同じであったとしても、データを取り扱う文脈によって使うシステムを変えるべきです。
SFAやCRMはSoE (System of Engagement) と呼ばれ、定性的な情報も含めた社内外での情報共有を目的とする”情報系のシステム”です。一方、ERPはSoR (System of Record) と呼ばれる、”帳簿を管理する”ためのシステムで、こちらは定量的な情報を厳格に管理することを得意としています。
メリット③:配賦基準として使える
ERPに登録されたKPIや非会計情報は当然、配賦基準として利用することができます。
ある会社がサテライトオフィスを契約しており、そこの利用時間や回数を集計することでリモート勤務率という指標を計算していたとします。あわせて、当月のサテライトオフィスの利用時間に応じて支払家賃を部門別に配賦しましょう、という管理会計上のルールが敷かれていた場合、ERPに”サテライトオフィスの利用時間”を登録してあげれば支払家賃を部門別に配賦する仕訳を自動で作成することができます。
Business CentralでKPIを管理する方法
Business Centralでは、KPIを含む非会計情報を管理するための代表的な機能として、以下の3つがあげられます。
- リソース仕訳帳 (Resource Journal)
- 原価仕訳帳 (Cost Journal)
- 統計勘定仕訳帳 (Statistical Account Journal)
今回は上記3の統計勘定仕訳帳を使ってKPIを管理する方法について解説していきます。使い方は至って簡単です。
統計勘定 (Statistical Account)
まず、KPIを”統計科目”として登録します。一般的な会計システムでいうところの非会計科目というやつです。
統計勘定仕訳帳 (Statistical Account Journal)
各部門からKPIを収集したら、統計勘定仕訳帳にこれを登録して転記します。必要に応じて分析軸 (Dimension) を無限にくっつけることができます。
統計勘定元帳 (Statistical Ledger)
転記された情報は”帳簿 (Leger)”として管理され、何人たりともこれを修正・削除することはできません。
また、月を締めてしまえば過去の日付でデータを入れることはできなくなります。これにより、厳格な帳簿として情報が管理されることになります。
財務レポート (Financial Report)
統計勘定元帳に登録されたデータは通常の仕訳データと同じように集計結果をレポートとして表示することができます。
したがって部門別の人時生産性みたいな指標も簡単に集計することができます。
もちろん、統計勘定元帳のデータはPower BIから参照することも可能です。
まとめ
・・ということで、ERPでKPIを管理することの是非や、そのために使えるBusiness Centralの機能について簡単に解説してきました。
管理会計、財務会計の両面において、KPIや非会計情報を適切に収集・管理することの重要性は日に日に高まってきています。
当社ではERP/CRM + BIを正しく導入することで、管理会計の高度化を実現するお手伝いをしております。お気軽にご相談を。